見知らぬ土地での人付き合い
住む場所というものはさまざまなことを左右します。転居すれば、「いつもの」という感覚が変わってしまうのは間違いありません。いつもの景色、いつもすれ違う人、いつも買い物をする店、いつもの駅など、「日常」は積み重ねることで成立するものです。
上京するということは見知らぬ土地に足を踏み入れて新しい生活を始めるということです。それは環境を変えて新しい「日常」を手にすることで、期待もあれば「不安」もあることです。「馴れる」ということは、その環境、状況に浸っているときにはその「価値」を感じないものなのですが、いざそれを変えてみようとすると一気にそれまでの「当たり前」に対して愛着を抱いていたことに気が付きます。一人の人が2つの「日常」を得ることはできないのです。毎日寝起きする場所、通勤、通学のために毎日通う場所、そしていつも見える景色などは、馴れている頃はなにも感じないものではあるのですが、環境を変えてみようとすると一気に寂しさを感じるものなのです。
その「環境」のひとつに「人間関係」があります。物理的に住居を変えようとするのであれば、その土地での人間関係はなくなるわけではありませんが、毎日顔をあわせるようなことがなくなるのです。何気なく会話していた相手とも、その場所に足を運ばなければ会うこともなくなるということです。そして、新しい場所で新しい人間関係を作る必要があるということです。
馴れない場所で、初めて会う人と触れ合うこと、新しい土地で新しい人間関係を築くことは、人によっては楽しみに感じることもあるでしょうし、人によっては不安がないまぜになることもあるでしょう。感覚でいけば、「転校」した時の感覚です。学生の頃そのように転校したことがあるのであれば、その時の感覚を思い出してみるといいでしょう。
人は不思議なもので、「知っている人」に対しては好意を持って接することができます。「知らない相手」に対してはその逆で、なにかにつけて冷徹になりがちなのです。それは自己防衛の本能が成すことなのかもしれません。相手がいい人が悪い人がわからない状態では、自分を守るために何もかもをさらけ出すわけにはいかないということです。
ただ、「進学」のために上京したのであれば、それは他の人も同じように感じているのです。他の人にとっても、こちらは「知らない人」です。仲良くなれるかどうかわからない相手です。何を考えているのかもわからない相手です。そのような人同士が同時に顔をあわせる場であれば、打ち解けることもできるでしょう。ただ、すでに出来上がっているコミュニティに新しく参加する場合は、そのコミュニティの暗黙のルールのようなものがあり、それを把握するまでに時間がかかってしまうかもしれません。
新しい土地での新しい人間関係は、安定するまでわからないものです。ただ、焦る必要はなく、毎日顔をあわせるのであれば、それは時間が作ってくれるものかもしれません。